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KUNIMI JOURNAL

今日の国実

カテゴリー (連続国実小説)

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第二章 スマートシュリンク


幻想の終わり、街の現実、そして守るべきものへの最初の問い。


秋晴の人口増政策は最初こそ勢いがあった。
中央のコンサルを数社集め、金額内容を競わせた。


ゆるキャラ「トドウ君」が作られ、B級グルメ「黒スーツ焼きそば」が誕生し、
移住者補助金や子育て補助金のチラシが街中に貼られた。
有名人を呼んだ講演会は、目ん玉が飛び出るほどの金を使った。


地域おこし協力隊は10人採用されたが、仕事は後から考えるという無謀さだった。
ふるさと納税の返礼品は、町長のサイン入り米袋という奇策にまで至った。


人口を増やすんだ。
全国の街がやってるんだ。
うちもやらなきゃ負けだ。


だが、その"幻想のエンジン"は静かに、しかし確実に空回りし始めていた。


札束で人を集めても、心は集まらなかった。


◼︎ 移住者の早すぎる帰還


補助金目当てで来た移住者は、3ヶ月も経たずに荷物をまとめた。


「すみません、やっぱり前の街の方が......」


秋晴は必死に言った。


「何が不満だ、全部直す!」


移住者は首を振った。


「不満じゃないんです。ただ、戻りたい場所が向こうにあっただけで」


その言葉は、秋晴の胸に深く沈んだ。


◼︎ 協力隊の"暇すぎる日々"


地域おこし協力隊の若者たちは、役場の一角でパソコンを開いたまま固まっていた。


「町長、僕ら...何をすれば?」
「町を盛り上げろ!」
「具体的には...?」
「...祭りをやればいい。そして、それはお前らが考えるんだ」


若者たちは困惑した。町を盛り上げる以前に、町には盛り上がる余地がほとんどなかった。


◼︎町民の"諦めではなく納得"


みどり屋の老人たちは秋晴の政策について話をしていた。


「ゆるキャラ作ったらしいぞ」
「どこも作っとるしな」
「移住者補助金も出すらしい」
「どこもやっとるしな」
「人口増やすってよ」
「日本中減っとるんやから、しゃあないわ」


その声には怒りも期待もなかった。
ただ、人口増は幻想だという"静かな納得"があった。
秋晴はその空気を誤読していた。
町民は諦めてなどいなかった。
ただ、現実を受け入れているだけだった。


◼︎ 秋晴の胸に初めて生まれた"違和感"


ある夜、秋晴は役場の屋上に立っていた。


シャッター通り、空き家、点在する小集落、年20人前後の入学児童。
町の姿はどれだけ旗を振っても変わらなかった。


秋晴はつぶやいた。
「俺は何を守りたいんだ?」


その問いは、これまでの秋晴にはなかったものだった。

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第1章 黒いスーツの町長誕生


ーー不純な動機、諦めの町、曖昧な期待、そして藤堂秋晴52歳の決断ーー


町長選挙の年、街には重たい空気が沈んでいた。


前町長は4期16年。何もしないことが「平和」だと信じているような政治だった。そして、5期目にも立候補した。


商店街の喫茶店「みどりや」では、老人たちが新聞を広げながらボソボソと話していた。


「また前の町長か」
「変わらないよ、何も」
「人は減るし、祭りも消えたし、もうどうにもならん」


その声には怒りではなく、静かな諦めが滲んでいた。何もしなくても人は減る、何をしても人は戻らない。活力が失われ、街はゆっくりと沈んでいく。


そんな空気の中、黒いスーツの男が立候補した。


その男の名は藤堂秋晴(とうどうあきはる)、52歳。かつてこの町をシマとして仕切っていた元ヤクザ。
今は組を抜け、妻と二人で静かに暮らしていた。


妻は選挙に出ると聞いた瞬間、泣きながら反対した。
「秋晴さん...お願いだからやめて。あなたはやっと普通の人になれたのよ」


秋晴は黙ってタバコを吸っていた。だが、そのタバコも酒も立候補を決めた日からピタリとやめた。
「町長になるなら、ケジメつけねえとな」
妻は泣きながら言った。
「そんなケジメ、いらないのに...」


秋晴が立候補を決めた理由は、最初は不純だった。
「前町長が5期目? ふざけんな、あいつの時代はもう終わりだろ」
ただの反発。ただの意地。ただの"元ヤクザの血"が騒いだだけ。


だが街を歩くたび、空き家、シャッター通り、消えた祭り、消えた若者――。


かつて"シマ"だった場所が、まるで骨だけになったように見えた。


「シマが死ねば親分も死ぬ。だったら町ごと立て直すしかねえだろ」


その言葉は、不純な動機の奥に潜んでいた"本気の火種"だった。


秋晴が立候補すると、町民に噂が広がった。
「え、東堂が?」
「町長に?」
「いやいや冗談だろ...」
「...でも、何かやってくれるかもしれん」


その期待は希望というより、"今さら何でもいいから風を入れてくれ"というぼんやりとした願望だった。


人口増・若者定着・新発想の町運営。そんな言葉を聞いても、町民はもう本気で信じてはいなかった。


だが、「何もしない前町長」よりは、「何かやりそうな黒いスーツの男」の方がまだマシに思えた。
それは希望ではなく、"諦めの先にある曖昧な期待"だった。


秋晴には後援者がいた。元建設会社の社長で街の裏も表も知り尽くした男ーー大河原(おおがわら)。
「秋晴、お前しかいねえ。この街を動かせるのはお前だけだ」


大河原は秋晴がタバコをやめたことも、酒を断ったことも知っていた。
「本気だな秋晴」
「当たり前だ。やるなら徹底的にやる」
大河原は笑った。
「よし、俺が後ろで全部支える。お前は前だけ見て走れ」
秋晴は黙ってうなずいた。


就任式の日、役場の玄関前には妙な緊張が漂っていた。
黒塗りの車がゆっくりと停まり、ドアが開く。


降りてきたのは黒いスーツに金のネクタイ、胸元から刺青がのぞく男ーー東堂秋晴。
町民は息をのんだ。


「...本当に町長になっちまったんだな」
「昔はあの人の前を歩くだけで足が震えたのに」
だが、町民の心の奥底には小さな、小さな光が灯っていた。


「もしかしたら...何かやってくれるかもしれん」
それは希望と呼ぶには弱すぎて、諦めと呼ぶには強すぎる奇妙な感情だった。


こうして黒いスーツの町長・東堂秋晴が誕生した。

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